1. はじめに:「7月、日本の輸出が過去4年で最大の落ちこみ」
2023年7月、日本の輸出額は前年同月比で 2.6%減少 しました。
この数字は、いち見すると小幅に感じられるかもしれません。
しかし、実際には 過去4年間で最大の減少率 であり、日本経済にあらたな課題をつきつける出来事といえます。
日本経済は近年、コロナ禍や世界的な景気のていかといった逆風に直面してきました。
それでも輸出は、一定の水準をたもってきたのです。
そうしたなかで輸出が大きく落ちこんだことは、経済全体にむしできない影響をおよぼす可能性があるとみられています。
輸出は、日本経済をささえる主要な柱です。
日本は資源にとぼしく、エネルギーや食料を輸入にたよる一方で、自動車や機械、電子部品、化学製品などを輸出して外貨をかくとくしてきました。
そのため、輸出の減少は企業収益をおし下げ、工場のかどう率や人々の雇用、給与水準に波及すると考えられます。
輸出が好調なときには企業の業績がのびやすく、結果としてちんぎんやボーナスの上昇につながる傾向があります。
逆に輸出がていめいすると、企業はコスト削減をせまられ、ざんぎょうの削減や採用おさえこみといった動きが出ることも少なくありません。
今後の社会や働き方も、こうした輸出動向に強く左右される可能性があります。
2. 日本の輸出が減少した3つの主因
では、なぜ2023年7月に輸出が大きく減少したのでしょうか。
その背景には、主に3つの要因があるとみられています。
(1)海外需要のていか
世界経済の冷えこみが、最初の要因です。
景気が拡大している局面では、人々は自動車や家電などの高額商品を積極的に購入します。
しかし、景気が悪化すると「購入を先おくりする」層がふえ、需要がよわまります。
その結果、輸出数量は減少しやすくなります。
とくに欧米諸国では、金利の引き上げがつづいています。
住宅ローンや自動車ローンなどの返済負担がふえたことで、家計があっぱくされ、高額商品の購買意欲はどんかしました。
(2)供給面での制約(生産・物流の問題)
つぎに挙げられるのは、日本企業の供給制約です。
近年、世界的に半導体ぶそくが深刻化しました。
半導体は自動車やスマートフォン、パソコンにかかせない部品であり、その供給がとどこおると完成品の生産がへり、輸出可能な数量もせいげんされます。
さらに、物流コストの上昇やコンテナぶそくも輸出をさまたげました。
「製品は完成しても船づみが遅れる」「輸送費が高く採算が取れない」といった状況が発生し、供給面の問題が輸出の減少に拍車をかけました。
(3)為替レートの影響
三つ目の要因は、為替レートです。
一般的に円安局面では、日本製品は割安に見え、海外での販売が有利になります。
逆に円高になると、割高に見え、需要が減少しやすくなります。
2023年は、円安きちょうがつづいていました。
しかし、需要のていめいや供給制約の影響が大きく、円安による価格競争力の効果だけでは輸出の減少をおさえることはできなかったと考えられます。
3. 自動車輸出が急落、その背景とは?
今回の輸出減少で、もっとも大きな影響をあたえたのは 自動車の輸出額が前年同月比で28.4%減少 した点です。
1か月で3わり近くも減少した事実は、自動車産業にとって深刻な出来事として受けとめられています。
では、なぜ自動車輸出はここまで急激に落ちこんだのでしょうか。
(1)アメリカ市場での在庫ちょうせい
自動車の最大の輸出先のひとつであるアメリカでは、在庫が一時的に積み上がりました。
その結果、販売業者は「まず在庫を消化してから新規のしいれを行う」と判断し、日本からの輸入をひかえる動きが強まりました。
つまり需要が消失したわけではなく、在庫ちょうせいによる一時的な輸入減少 が発生した状況です。
(2)現地生産のかくだい
日本の自動車メーカーは、アメリカや欧州で工場を設立し、現地生産を進めてきました。
この動きは輸送コストの削減や現地雇用のかくだいを目的としたものです。
その結果、「現地で生産し、現地で販売する」体制が定着し、日本から完成車を輸出する必要性は相対的に低下しました。
この影響で、輸出台数は減少傾向にあります。
(3)サプライチェーンの混乱
自動車は数万点の部品から構成されています。
そのため、ひとつの部品でも供給がとどこおると、完成車の出荷が遅れます。
とくに電子制御をになう半導体のぶそくは深刻で、生産計画に遅れが生じました。
このサプライチェーンの混乱が、輸出の減少に直結したといえます。
(4)消費者心理の変化
アメリカや欧州では、金利上昇や物価高がつづいています。
これにより消費者は「今は大きな買い物をひかえるべきだ」と考えるようになりました。
自動車のような高額商品は、景気や家計の影響を受けやすいため、購買意欲のていかにつながったのです。
このように、自動車輸出の急げんは、在庫ちょうせい・現地生産のかくだい・部品ぶそく・消費者心理の変化 など、さまざまな要因が重なった結果だと考えられます。
4. その影響は?— 貿易赤字のかくだい
輸出が減少する一方で、日本は引きつづきエネルギーや資源を輸入しています。
とくに原油や天然ガスの価格が高どまりし、輸入額はへりませんでした。
その結果、2023年7月の貿易収支は1175億円の赤字 となりました。
「貿易赤字」とは、輸出による収入よりも、輸入に支払った金額のほうが多い状態を意味します。
たとえば、1,000円のおこづかいを得ても、文ぼう具やおかしで1,200円を使えば、200円の不足が生じます。
これと同じ構造で、日本も輸出収入より輸入支出が多く、1175億円の赤字が発生したのです。
この赤字は、経済にいくつかの影響をあたえます。
- 外貨の流出
赤字がつづくと、海外への資金流出がふえ、外貨じゅんびが減少する可能性があります。 - 円安への圧力
「日本はもうけられていない」と市場が判断すれば、円が売られやすくなり、為替相場は円安方向に動きやすくなります。 - 生活コストの上昇
円安や輸入価格の高どまりは、電気代・ガソリン代・食料品の値上がりに直結します。
そのため、国民生活への負担が強まると考えられます。
5. 金融市場や日銀の対応は?
輸出の減少と貿易赤字のかくだいを受け、金融市場では「このまま円安や物価上昇がつづくのではないか」という懸念が強まりました。
そのなかで、とくに注目されているのが日本銀行(にちぎん)の金融政策です。
(1)金利引き上げが議論される理由
にちぎんは長期間にわたり、超低金利政策をいじしてきました。
そのねらいは、企業の投資を後おしし、個人の消費をうながすことです。
しかし輸出のていかが円安を加速させ、輸入価格の上昇をつうじて、物価高をまねく可能性が意識されるようになりました。
その結果、市場では「にちぎんが10月にも利上げにふみきるのではないか」という見方が広がっています。
金利を引き上げると、円を保有する魅力が高まり、為替は円高に向かう可能性があります。
円高は輸入品の価格を引き下げ、物価上昇をおさえる効果があると考えられています。
(2)金利引き上げのマイナス面
一方で、利上げにはリスクもあります。
住宅ローンや企業の設備投資にかかる利息負担がふえ、家計や企業のコストが重くなるおそれがあるためです。
結果として、景気が冷えこむ可能性があることから、にちぎんは慎重な姿勢をくずしていません。
(3)市場関係者の見解
投資家や専門家のあいだでは、「急激な利上げはさけられるだろうが、円安をほうちすれば生活コスト上昇が国民に打撃をあたえる」という声が目立ちます。
にちぎんは、むずかしいかじ取りをせまられていると見られています。
6. 中学生からのよくある質問Q&A
Q1:輸出と輸入のちがいは?
- 輸出:日本で生産した製品を外国に販売すること。
例:日本車をアメリカに輸出。 - 輸入:外国で生産された製品を日本が購入すること。
例:アメリカ産の牛肉を日本が輸入。
Q2:輸出がへるとどうしてこまるの?
企業の売上がへると、給与やボーナスが下がる可能性が出てきます。
工場のかどうが減ると雇用にも影響し、経済全体の資金じゅんかんがちぢまることで、景気こうたいにつながるおそれがあります。
Q3:関税とは?
関税とは、輸入品にかけられる税金のことです。
たかく設定すれば輸入品は割高になり、国内産業を守る効果があります。
ただし、今回の輸出減少の要因は関税ではなく、在庫ちょうせいや部品ぶそくなど、供給・需要の問題でした。
Q4:貿易赤字の問題点は?
貿易赤字とは「輸入額が輸出額を上回る状態」のことです。
赤字がつづくと円安の圧力がつよまり、ガソリン代・電気代・食品価格の上昇につながります。
そのため、国民生活への影響が大きくなるのです。
Q5:円高と円安の意味は?
- 円高:1ドル=100円が90円になるような状態。
円の価値が高まり、輸入品は安くなりますが、輸出にはふりになります。 - 円安:1ドル=100円が120円になるような状態。
円の価値が下がり、輸出には有利ですが、輸入品の価格は上がります。
7. まとめ
2023年7月、日本の輸出は前年同月比で 2.6%減少 し、過去4年間で最大の落ちこみとなりました。
とくに自動車輸出が 28.4%減少 したことが大きくひびき、その結果、1175億円の貿易赤字 が発生しました。
背景には「アメリカ市場での在庫ちょうせい」「現地生産のかくだい」「半導体ぶそく」など、複数の要因が重なっています。
この影響は、日本経済や生活コストに直結し、金融市場では「にちぎんが利上げをけんとうするのではないか」というよそうも出ています。
輸出・輸入、円高・円安といったしくみは、経済用語にとどまらず、私たちの生活に深くかかわっています。
とくに若い世代にとっても、知っておくべき大切な知識だといえるでしょう。
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